前回は「Common Yoga Protocol/ヨガ共通手順」とは何かということをざっくりとお話させていただきました。
今回は、具体的な内容をご紹介したいと思います。
ちなみに、この「Common Yoga Protocol/ヨガ共通手順」は、インド政府のAYUSH省のHPに動画と電子書籍で一般に公開されています。そちらから抜粋する形でご紹介します。
そもそも、「ヨガ」とは?
ヨガとは、本質的に非常に繊細な感覚に基づいた”精神修行”であるとされています。
ヨガは、健康な生活のための技法であり科学です。
ヨガという言葉は、サンスクリット語で、「合わせる」「ひとつにする」「統合する」を意味する【yug(ユジュ)】に由来します。
ヨガに関する古典文献は、「ヨガの実践は、個人意識と世界意識の統一に繋がる」と述べています。
それは、心と体、人間と自然の間で完全にバランスが取れているということを意味します。
ヨガの科学の原型は、最も古い宗教や、信仰系統が形成された時代のかなり前である数千年前に生まれました。
とあります。
なんだか難しいですね。
「個人意識と世界意識の統一」というのがキーポイントです。ちょっと宗教っぽい響きですが、ヨガではとても大切な考えのひとつです。
ある尊敬する先生が、このことに関して「大洋感覚」という言葉でわかりやすく説明してくださいました。
「大洋感覚」とは、自分個人は一粒のしずくで大海に溶け込んで大海と一緒になるような感覚、自然や宇宙と調和して一体になるような感覚のことです。
反対によくあるヨガや瞑想のイメージで、深めていくと出家した修行僧のように外界との接触を断って、ひたすら自分の内側を見つめ自分の奥へ奥へと入り込んでいきその先に「悟り」や「ゴール」があり、何者にも左右されない、影響されない不変の存在になる。というようなものがあります。
これはちゃんとした瞑想の練習の方法の一つではありますが、この内側に向く感覚を極めてしまうと、私たちの生活に支障がでますよね。私たちは社会の一員として生活しているのですから。
なので、社会の一員として生活しながらその生活をより良くするためにヨガを取り入れる私たちは「大洋感覚」をもって、自分の周りの存在と調和していくことが大切だということです。
実践編~8つのステップ~
前置きが長くなりましたが、実践の手順です。
1.こころの準備(お祈り)
2.からだの準備(スークシュマヴィヤヤーマ)
3.アーサナ
4.浄化法(クリヤ・カパラバティ)
5.調気法・呼吸法(プラーナーヤーマ)
6.瞑想(ディヤーナ)
7.誓い・心の方向付け(サンカルパ)※自分自身に向けたもの
8.お祈り※世界の存在全体に向けたもの
ひとつひとつ簡単に説明します。
1.こころの準備(お祈り)
ヨガは、お祈りに始まり、お祈りに終わります。日本の”道”精神にもつながりますね。
ヨガのお祈りでは、マントラという節のついたお経のようなものを唱えます。「真言」といいます。
インドのみならず、世界中の文明の中に言葉の持つ力を重視する現象はありますが、インドでは特にそれが顕著で、現在までその伝統が広く残っているそうです。
どのマントラを唱えるかは厳密に定められてはいませんが、一般的な例として紹介されています。
調和のとれた動きができますように
皆と声を合わせて発生ができますように
始まりの時と同じように心が落ち着いていられますように
このすべての尊き探索に神が現れますように
といった内容です。
2.からだの準備(スークシュマヴィヤヤーマ)
気持ちが落ち着いたら次に身体の準備です。
スークシュマヴィヤヤーマとは「体の微細な運動」という意味で、本格的なアーサナ(ポーズ)の練習の前の準備運動のことです。
具体的には、首、肩、腰、膝などを左右前後に伸ばしたり、曲げたり、回したりします。
これ古典文献などでは、いきなり結構ハードに曲げ伸ばししたりする記述もあるようなのですが、現代医学に基づいてソフトにやさしく行うようになっています。
3.アーサナ
準備運動ができたら、いよいよアーサナ(ポーズ)です。
【立位】
・ターダーサナ(山のポーズ)
・ヴリクシャーサナ(木のポーズ)
・パーダハスターサナ(手と足を合わせる前屈ポーズ)
・アルダチャクラーサナ(半分の円のポーズ)
・トリコナーサナ(三角のポーズ)
【坐位】
・バッドラーサナ(幸福のポーズ)
※文献によるバッドラーサナは難しく初心者には危険なポーズなので、ダンダーサナ(長座)とバッダコーナーサナ(坐位で膝を開き足裏を合わせるポーズ)として紹介されています。
・アルダウシュトラーサナ(半分のラクダのポーズ)
・シャシャンカーサナ(ウサギのポーズ)
・ヴァックラーサナ(脊椎のねじりのポーズ)
【伏臥位(うつぶせ)】
・ブジャンガーサナ(コブラのポーズ)
・シャラバーサナ(バッタのポーズ)
・マカラーサナ(ワニのポーズ)
【仰臥位(あおむけ)】
・セツバンダーサナ(橋のポーズ)
・パヴァナムクターサナ(ガス抜きのポーズ)
・シャヴァーサナ(屍のポーズ)
4.浄化法(カパーラバーティ)
アーサナで身体を整えたら、浄化法です。浄化法はハタ・ヨガの中で、アーサナや次に行うプラーナーヤーマなどと並んで大変重要な技法とされています。ここでは代表的な浄化法、シャット・カルマ(六種の浄化法)の中の1つであるカパーラバーティが紹介されています。
ふいごのようにすばやく呼吸を出し入れする方法ですが、吐く息にのみ意識をして吸う息は自然に入ってくるように行うと、一見過呼吸のように見えますが、自律神経が整っていくと言われています。
初めての方は決して無理をしないように行うのが重要ですが、慣れてくるととても頭がすっきりとして気持ちよく、瞑想に入りやすい状態になります。
カパーラとは「額、頭蓋骨」、バーティとは「輝く、光る」の意味です。
5.調気法・呼吸法(プラーナーヤーマ)
ヨガの呼吸法は”気”を調整するという意味で「調気法」と呼ばれます。
ここでは、代表的な片鼻呼吸法、「ナーディーショーダナ・プラーナーヤーマ」と「アヌローマヴィローマ」、「ブラーマリー」が紹介されています。
「ナーディーショーダナ・プラーナーヤーマ」と「アヌローマヴィローマ」
「ナーディーショーダナ・プラーナーヤーマ」は「ナーディーを清めるプラーナーヤーマ」の意味で、ナーディーとは、「気道、脈、管、プラーナ(気)の流れる道」という意味です。
ヨガの大切な身体の考え方でプラーナという”気”がナーディーという”管”を通って体中をめぐっているとされています。中医学でいうとプラーナが「気」、ナーディーが鍼灸でいう「経絡」に相当するものと言われています。
そのナーディー「管」の流れをきれいにすることが目的です。
酸素をたくさん取り入れ、二酸化炭素を効率的に排出することで、毒素を排出し、血液循環を良くし身体全体に滋養を与えてくれるとされています。
具体的な方法は、「左の鼻孔から吸い⇒右の鼻孔から吐く⇒右の鼻孔から吸い⇒左の鼻孔から吐く」を繰り返します。
その途中でクンバカ(息を止めること)を入れるのが「ナーディーショーダナ・プラーナーヤーマ」、入れないものが「アヌローマヴィローマ」です。
「ブラーマリー」
「ブラーマリー」とは、直訳は「メスの蜂」という意味で、「蜂の呼吸」といいます。
呼吸するときに蜂の羽音のような音をだすことからこの名前がついたとされています。
心を落ち着ける効果があるとされています。方法が二つ紹介されています。
【方法1】
好みの坐法で座り、目を閉じます。
身体をリラックスさせ、呼吸の音を聞きながら両鼻からゆっくり息をを吸い、吐く息で蜂の羽音のようなハミングの音を出しながらゆっくり吐き切ります。(口をとじたまま「んーーー」という声を出します。そうすると、口や頭部で反響して蜂の羽音のような振動になります。)
これを繰り返します。
【方法2】
好みの坐法で座り、目を閉じます。
身体をリラックスさせ、呼吸の音を聞きながら両鼻からゆっくり息を吸い、吐くときにヨーニ・ムドラー(シャーンムキー・ムドラーとも言う)を作りながら蜂の羽音のようなハミングの音を出しながら吐きます。
ヨーニ・ムドラーとは、
親指で耳をふさぎ、人差し指で目をふさぎ、中指で鼻をふさぎ、薬指と小指で口をふさぐ形です。
(※ムドラーとは、「印」や「シンボル」という意味で、身体を使って特定の意味を象徴的に表現することです。)
これを繰り返します。
【方法1】【方法2】のほかに、人差し指か中指で耳だけをふさいで行う方法や、手をカップのようにして耳を覆う方法などを習ったことがあります。
ブラーマリーは瞑想や睡眠の前に行うと良いとされています。ブラーマリーで生じる音は、心をやわらげてくれるやわらかい音なので、不安や緊張や怒りを解きほぐしてくれます。
6.瞑想(ディヤーナ)
いよいよ瞑想の練習です。
瞑想はヨガの練習の中で最も重要なものであるとされています。
これまでの1から5までのステップは瞑想をするための準備として行われてきました。
現在日本で行われているヨガのクラスでは、「3.アーサナ」だけを行うクラスがほとんどのように思われます。特に大手のヨガスタジオやスポーツジムなどではその傾向が顕著で、瞑想などスピリチュアルなイメージを持たれるものは排除して、純粋にポーズなどで身体を動かすだけのプログラムに敢えてしてあるとお聞きしました。
これは日本で90年代に起きた、某宗教団体の事件が影響しているといわれていますが、本来は「瞑想」こそヨガの醍醐味とされています。
具体的な方法を見ていきましょう。
【方法】
好みの坐法で座ります。
背筋をのばして、手は「ジニャーナ・ムドラー(チン・ムドラー)」を作ります。
※「ジニャーナ・ムドラー(チン・ムドラー)」とは、人差し指と親指で環をつくり、残りの3本の指はリラックスさせておきます。掌が上向きが「チン・ムドラー」で下向きが「ジニャーナ・ムドラー」とも言われていますが、その違いは曖昧だそうで、ここでは「ジニャーナ・ムドラー」と言って、掌を上向きと指示されています。
肩、腕はリラックスして、手の甲を膝の上に置いておきます。
顔の緊張を解いて、目を閉じ
集中する必要はなく、ただ穏やかな表情のまま、軽く眉間に意識を集め、ご自身の呼吸に意識を向けます。
呼吸を静かに観察しながら、ただそこに座り続けます。
時間はご自身がいられる時間だけ。最初は5分でも10分でも無理ない長さから始めます。
初心者の方にはBGMとして癒されるような音楽を流してもOKとされています。
【効能】
「瞑想」は精神を鎮め、穏やかにします。
また集中力や記憶力を高めるとされていて、思考をより明確にし意志の力を強くすると言われています。
身体や精神に対し、必要な休養を与えることで、身体全体を活性化し、前向きな感情を湧き起こさせるとされています。「瞑想」は自己実現につながるとも言われています。
7.誓い・心の方向付け(サンカルパ)※自分自身に向けたもの
自分自身に対しての誓いを心の中で行います。
これは、それぞれの個人的な願望や願いを思っても良いですし、モデルとして誓うべき内容も書かれています。
私は、健康的で、平和的で、喜びにあふれ、愛に満ちた人間になることを誓います。
私のすべての行動を通して、平和で愛に満ちた雰囲気を自分の周りに作るように努力します。
私は、現在の自分の限界を破り、世界全体を自分の中に取り入れます。
私は、私自身の命が他人の命と密接に結びついていることを認識します。
私は、あらゆるものの一体性を認識します。
といった内容です。
こういうことを常に願っているインドの方って、本当に偉いですよね。
私なんかはついつい私利私欲の願いや願望を優先させてしまいますが。。
「サンカルパ」はすでにその願いが果たされたかのように思うことが大切とされています。
立派なことを思おうとはせず、身近な小さなことからでも良いと思います。
8.お祈り※世界全体に向けたもの
最後は宇宙の祈り「平和のマントラ」を唱えてヨガの練習を終わります。
これもサンスクリット語で唱えます。
すべての人が幸せになれますように
すべての人が病気と無縁でいられますように
すべての人が吉祥とは何かを見ることができますように
誰も苦しみませんように
オーム シャンティ(平和) シャンティ(平和) シャンティ(平和)
といった意味の内容です。
最後に出てくる「オーム(Om)」は、プラナヴァ(聖音)とも言います。
本来、古代インドの儀式の際にバラモン(司祭※インドのカーストの最高位)たちによって発せられた音で、現在でもヨガを学ぶときや宗教的儀式や神聖なことを行うときの始めと終わりに必ず唱えられるものとされています。すべてのマントラはこの「オーム(Om)」から始まるとされています。
インドの方たちにとって、とても大切な言葉である「オーム(Om)」。
日本ではこの名前を冠した団体が過去に凄惨な事件を起こしましたね。それによって「オーム」が日本人にとってマイナスのイメージの言葉になってしまいました。
インドの方たちからしたら大変悲しく腹立たしいことでしょう。
私が自分の練習で参加するクラスではマントラを唱えてから始まるクラスがほとんどでしたが、クラス全員で「オーム(Om)」を唱えると空間が凛として、気持ちが落ち着き、集中が高まるのを感じました。
ヨガを学び、ヨガの身体や精神に対する効果を享受するのなら、私たちもこの「オーム(Om)」を敬意をもって大切に唱えるべきだと私は思います。
以上が「Common Yoga Protocol/ヨガ共通手順」の概要です。
この一連の流れがまず初心者が実践すべきヨガの練習のスタンダードということなんですね。
実際の練習は、ちゃんと先生の指導のもとで行ってくださいね。
この記事が「○○ヨガ」で悩んでいる方の一つの指針になればうれしく思います。
長文お読みいただき、ありがとうございました。
トミザワリエ
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